猛吹雪の撮影 ロケ場所探しに苦労

青空に陽射しの中、雪中行軍隊が歩いたらピクニックに見えてしまう。真上からシンシンと静かに降る雪は演歌の世界か。

猛烈な吹雪、大暴風雪のシーンはどうしても必要。これが映画の最大のヤマ場、見せ所。ハリウッドならVFXを駆使するだろう。黒澤明の映画なら、延々と吹雪が来るまで天気待ち。映画八甲田山でも高倉健が天気待ちで、雪の中に延々と立たされたままという話もあった。理想なのは、役者が立ち、カメラがスタンバイ。撮影スタートの合図とともに猛烈な吹雪がやって来る。うーん、これは素晴らしい。

そんな奇跡は起こるはずもなく、ふつうは撮影現場で天気待ちとなる。 天気待ちで撮影が1日延びれば、撮影に関わる費用が1日分加算される。タクシーが1mも進まず、止まったままでメーターだけが上がっていくのと同じ。予算のメーターが1日で500万円ずつ上がっていくと思っていただければわかりやすいかもしれない。吹雪が来るまで天気待ちという状況は効率的ではない。




東京・世田谷の東宝スタジオ。当初はスタジオでの撮影も考えていた。



八甲田での遭難シーン。出演者スタッフは東京から、また地元青森の役者やスタッフも参加。限られた撮影日、晴天で青空になってしまうと撮影ができなくなる。そこで確実に天候が悪そうな日を狙う。天気予報の精度として数日前なら当たる確率は高い。しかし数日前になって撮影日を決めるなどというのは無理。全員のスケジュール、ホテルや車両、撮影機材、地元のエキストラなど、少なくとも1か月前には日程を決める必要がある。

1か月先の天気予報ともなれば当たる確率は低い。八甲田の過去10年、20年、30年の天気を調べ、悪天候になりそうな日を撮影日に選択した。撮影日程を決めるだけでも2か月程度かかっている。リアリティを重要視して、雪中行軍隊が遭難していくシーンは実際の遭難現場で撮影することに決めていた。しかし撮影当日に吹雪になるだろうか?

青森市の北西にある五所川原市は地吹雪が有名。他よりも高い確率で猛吹雪を見ることができる。しかしながら、五所川原へ行くには遠く、遭難現場のリアルさにこだわると八甲田山中でどうしても撮影したい。 局地気象の取材では遭難現場やその周辺を歩き回って、植生や風向風速のリサーチを継続的に行っていた。その際には天候の悪い日に確実に吹雪になっている場所、吹雪が他よりも激しい場所はないかと調べ回っていた。




遭難現場・鳴沢の最上部付近


当時の地図と遭難現場


遭難現場・鳴沢を下る。



結果、4年かかってそんな場所を見つけ、吹雪の中でのシーンを数多く撮ることができた。遭難現場と周囲の地形、風景にも詳しくなった。

吹雪の馬立場はどんな気象状況か、見に行ったことがある。銅像茶屋の駐車場から登っていくが雪は深い。かんじきを着けて歩くのはひと苦労。10歩進んで休み、5歩進んで休み、雪がない時と比較すれば頂上まで倍以上の時間がかかる。吹雪の馬立場頂上はすごい。風が強く、立っていられないほど。しばらくすると猛吹雪になった。

八甲田の別の場所で吹雪を観察していた時のこと。こんな現象に遭遇した。猛吹雪となるが1分ほどで勢いがなくなり、普通に雪が降る状態となる。5分待つと、また猛吹雪が2分、さきほどより少し長い。3分待つとまた猛吹雪、今度は3分続く。こんなパターンを繰り返し、最終的には猛吹雪が長時間続くこともある。場所によって様々な傾向があることもわかった。冬の八甲田、遭難現場付近に通い続けたことで多くの情報を得ることができ、これらが撮影本番の際におおいに役立った。

馬立場頂上のロケハン。帰ろうとしたら猛吹雪に。短い時間だったがホワイトアウトになった。「ここはもう自分の庭みたいなもんだから、目をつぶってでも歩けるぜ」などと思ってはいけない(笑)。吹雪が止まるのを待った。すると3分ほどで吹雪は止まり、視界が開けた。歩き出して数分後、再び吹雪。歩かずその場に留まった。もともと寒さには強く、取材のおかげで知識も装備も万全。頂上から30分ほどかかったが無事に銅像茶屋の駐車場に到着した。

もしも知識がなく、吹雪で視界が奪われた中を歩き出せば、確実にリングワンダリングに陥る。高確率で鳴沢渓谷の方向に下ってしまい、遭難するだろう。

余談ではあるが、高倉健の映画八甲田山のシーン。吹雪の中、田代付近で方向を見失うが進路を発見、道案内人が弘前31連隊の徳島大尉(高倉健)にこう言う。

「あそこさ行ったら馬立場さ行ける!」

このシーンの背景に映った山の斜面は、すぐに鳴沢だとわかった。この位置に鳴沢が映るのは馬立場の頂上だけ。 「馬立場さ行ける」じゃなくて、いま馬立場にいるじゃないですか。画角からすると後藤伍長の銅像の前に木村大作カメラマンと森谷司郎監督がいるはず。100&正解の自信あり、しかしこんな特技を身につけても撮影以外は何の役にも立たない(笑)




ロケハン中の監督(中央の影)